これはどうだ!のおすすめ狛犬
No.118〜 2015.8

松は待つ〜天神社(西東京市)

                 天神社(東京都西東京市北町6-8-14


俗に明治二十七八年戦役(1894〜95)と言われている日清戦争は日本側の勝利で終わった。

靖国神社の狛犬は日誌によれば「明治二十八年、山縣有朋清国海城三学寺より譲り受け奉納」と記されている。
同時期の狛犬が西東京市北町六丁目の天神社に居る。


銘は
  「明治廿八年十月吉日 下保谷 氏子中」
  「北豊嶋郡元関町村石工 田中酒造蔵 
彫工 伊藤寅吉富士光 當所 建方工夫 鳶連中」
奉納理由は清国からの帰還を氏神に感謝して奉納したものである。
奉納された従軍記によれば明治二十七年八月一日に日清戦争がはじまり、氏子達も第一師団の兵となって戦場に赴き転戦をしたが無傷で凱旋した、これは天神様のおかげであると言っている。
文章は全体に勝ち戦の勇ましさを強調したもので戦争の悲惨な面は無い。


しかし狛犬台座のレリーフに込めた思いを理解するとまったく違う面がうかがえるのだ。
右には山乳母の乳房を激しくつかみ口にくわえる金太郎、切ないほどの親子の情を表す
左は十牛図の一つで牛の背中に乗り故郷に帰る騎牛帰家(きぎゅうきか)である。
そして双方とも吉祥木の五葉の松が覆いかぶさるように描かれている。
本来の意味は夫婦円満・不老・子孫繁栄などとされるが、
この場合は無事の帰りを「待つ」であろう
レリーフも素晴らしいがこの狛犬の出来は尋常ではない、一見の価値あり。



                                (文・山田敏春/写真・阿由葉)