香取神宮の忠太狛犬
下総一宮である香取神宮は、切手の図案にもなった重文の「古瀬戸黄釉狛犬」を所蔵していることは知られていますが、もう一対、元禄十三年(1700)に五代将軍綱吉に依って造営された朱塗りの楼門の裏にも狛犬がいます。 今回はこの狛犬を紹介します。
境内の神代杉を使って制作された狛犬は、昭和九年三月二十日(1934)帝国在郷軍人会千葉支部一同によって奉納されました。 以前来たときには気づきませんでしたが、狛犬の台座の前後には字が刻まれています。 風化して読み取りにくいのですが「昭和甲戌洞玄佐藤朝山」と読めるようです。 もしこの読みが正しければ、この木彫狛犬は昭和九年に彫刻家の佐藤朝山(玄々)が作ったものと言うことになり、大変貴重な作品といえます。
佐藤朝山は社寺の彫刻をする「宮彫り師」の家に生まれ、高村光雲の高弟山崎朝雲に師事、大正二年(1913)に独立し朝山の号を受けました。 また古代インド彫刻にも多大な影響を受けていたと云われ、作品としては三越デパートのホールにある巨大な天女像が有名です。 狛犬は彩色が無く、力強い鑿跡が印象的ですが、昭和八年に奉納された靖国神社の忠太狛犬を写したものと思われます。 狛犬好きで神宮建造技師兼内務技師の肩書きを持ちインドにも留学したことのある工学博士伊東忠太、宮彫り師で古代インド彫刻に影響を受けた佐藤朝山、この狛犬には共通の嗜好を持つ二人の繋がりが伺えます。
プレート銘
帝国在郷軍人會 千葉支部會員一同 昭和九年三月二十日
付記 本記念品ハ香取神宮境内神代杉ヲ以テ制作シタルモノナリ
台 座 銘
昭和甲戌洞玄佐藤朝山(推定)