これはどうだ!のおすすめ狛犬
No.47〜 2009.8

高尾山の江戸狛犬

               高尾山薬王院有喜寺(八王子市高尾町2,177)

高尾山は標高600.3m、山腹に火伏せの神、飯綱権現を祀る薬王院があり、本堂下の石段脇に大きな江戸狛犬が居ます。
江戸鎌倉河岸」の銘があり「豊嶋屋甚兵衛」を筆頭に6人の名が刻まれています。

江戸鎌倉河岸は慶長元年(1596)江戸城工事の石材を鎌倉から運んで来て荷揚げした場所として鎌倉河岸と呼ばれました。現・千代田区内神田2丁目の辺りです。
家康入国以前からこの地で商いをしていたという豊嶋屋は、同じく慶長元年に豊嶋屋十右衛門が豊嶋屋の屋号で江戸城工事の武士や人足達を相手に居酒屋をはじめました。
酒は原価販売でつまみは大きな自家製豆腐の田楽がやはり安価で出され、評判になりました。
また八代将軍吉宗の頃、豊嶋屋がひな祭りの為に売り出す「白酒」がことに有名で、半日で1400樽を売ったと云われています。

鎌倉河岸は別名豊嶋屋河岸とも呼ばれ豊嶋屋一家が様々な商いをして居ました。
本店の豊嶋屋十右衛門は下り酒問屋の他、明樽問屋・醤油酢問屋、豊嶋屋鉄五郎は瀬戸物問屋、そして
狛犬を奉納した豊嶋屋甚兵衛は蕨縄問屋・下り傘問屋・畳表問屋という具合です。

台座銘 寛政三辛亥歳五月吉祥日(1791年)
  奉 献 江戸鎌倉河岸 豊嶋屋甚兵衛
             豊嶋屋甚助
             伊勢屋四郎右衛門
             犬竹忠七
             矢野伊四郎
             矢野松三郎
    石 工 宗右エ門
    細工人 源太郎(阿像) 
    細工人 忠兵衛(吽像)

大きくてボリュウムのある狛犬、工事全体を請け負ったのは石工宗右衛門
狛犬を刻んだ石工は
細工人と名乗り阿像が源太郎、吽像が忠兵衛です。
二人の石工が一体ずつ刻みそれぞれの台座に名を刻んでいるのは大変珍しく、江戸からこの地に来て泊まりがけで仕事をしたものと考えられます。
それにしてもこの狛犬さんには幾らお金が掛かってて居るのだろうか?
火伏せ祈願の狛犬奉納とはいえ、見得と宣伝も兼ねているような気がします。

                                   (写真・文/山田敏春)