十代目の狛犬
宝珠花神社(春日部市西宝珠花町)
日本全国では伊勢参拝記念の狛犬がいくつ有るのだろうか、かなりの数があると思われます。 江戸時代には江戸川の河岸として賑わった春日部市西宝珠花町(旧・庄和町宝珠花)の宝珠花神社にも1対います。 昨年我々狛犬研究会でも伊勢神宮で太々神楽奉納を行ったので「伊勢太々連」の文字に出会うとあの清楚で艶めかしくも荘厳な神楽を思いだします。
台座銘によれば伊勢参拝は文久二年五月のようです。 狛犬は3年後の元治二年の正月に奉納、発願主を含めて9名の名があります。 石工は「浅草森下角 十代目七右衛門」です。 浅草森下角とは俗称で現在の台東区寿町1丁目の内にありました。 正式には金竜寺門前町でこの東の角に石工七右衛門の店があったのでしょう。 なお森下の由来は東隣に森のような堀田豊前守の屋敷があった為です。 実は西宝珠花町の人達が伊勢参拝を行った文久二年には、未だ九代目七右衛門が越谷の久伊豆神社で石橋を手がけていましたが、この狛犬には十代目七右衛門と刻まれています。 九代目から十代目へと代替わりして狛犬を刻んだのです。 因みに元治二年は四月に改元されていて慶應元年とされています。 台座銘には時々このような年表には載っていない年号があり、そんなものを見つけるのも楽しみの一つです。 狛犬は典型的な江戸狛犬で石工の感性と技術が相まって申し分のない仕上がりです。 また石の質も良く未だに欠けたところも無いようです。
伊勢太々連 発願主 前田仁兵衛
文久二壬戌五月吉祥日(1862)
元治二乙丑年正月吉祥日建之(1865)
浅草森下角 十代目石工七右衛門
(写真・文/山田敏春)