これはどうだ!のおすすめ狛犬
No.57〜 2010.6

手彫りと手押し

                 葛西神社(葛飾区東金町6-10-5)


葛西神社(葛飾区東金町)の拝殿前には目に銅板をはめ込んだほんわか癒し系狛犬がいます。
ミカゲ石の台座表面が傷んでいて銘を読むのは難しいのですが、「奉献 當地 二葉喜太郎」「石工□□金太郎」「明治四十年十月」とあるようです。

関東では小松石より硬いミカゲ石の狛犬は未だ珍しく、高価であったと思われますが、境内をまわってみると奉納者の二葉喜太郎の名が石碑や鳥居、手水鉢にもあります。


二葉喜太郎はかつてあった「帝釈人車鉄道株式会社」の会社発起人の一人で社長を勤めていた方です。
明治33年に帝釈天参りのお客を見込んで開業した帝釈人車鉄道は、定員6人の客車を人が押して走る鉄道
金町〜柴又間の約1.2キロを15分ほどで運行、当初は赤字でしたが明治37年からは毎年黒字となり、順調に配当がありました。


営業内容をみると、当然のように乗降客は年に6回ある帝釈天の祭日である庚申の日に集中するという状態で、因みに明治41年1月6日の乗客は11,812人だが翌日は53人というありさまでした。
開業から13年後の大正元年、京成電鉄に譲渡して解散、線路用地はそのまま人車軌道から電気軌道に敷き替えて現在に至っています。

人の力で硬い石を彫って狛犬にする、また人力で鉄道を運行する、大変だと思うが便利な物と言われる物に振り回される現代よりも心引きつけられるものがあります。

                                       
(写真・文/山田敏春)