これはどうだ!のおすすめ狛犬
No.65〜 2011.2

狛犬一個

               鹿野山神野寺(千葉県君津市鹿野山324-1)


台座に刻まれる字は狛犬建立の時期や理由を知るうえで貴重なもので、僅か数文字から思わぬ事を教えてくれる。


鹿野山神野寺(千葉県君津市)拝殿前の狛犬の台座(右)には
 「狛犬一個」 「木更津町木乃葉屋 寄付者 三輪常吉」
 「大正十一年十月吉日」 「当山現住 楠純隆代」
 「寛政十二庚申歳 石工重田三次郎正月吉辰」 「櫻井村 石工 大野吉次郎」
とある。

獅子二匹とか狛犬一対というのは見るが、狛犬一個と云うのは初見だ。
そのわけを追ってみた。


大正9年9月24日に発生した台風は30日から1日の未明にかけて東京湾を直撃、高潮となり湾岸を襲った。
3年後の関東大震災に隠れて今や知る人もいないというが「大正六年の東京湾大津波」と云われている。
後日の発表によれば全国での死者及び行方不明者は1,144名、家屋の全半壊流失は43,871戸というものであったが、ここ鹿野山神野寺でも大きな被害を受け、樹齢数百年を経た杉の大木数十本が倒れ、仁王門、表門その他の建造物も倒壊、また寛政12年(1800年)に奉納された狛犬にも被害が及び、吽像は無事でしたが阿像が大きく破損したと思われます。
その後「三十世楠純隆師」のもと再建工事と境内整備が行われ、ようやく昔のような神野寺の景観を取り戻し、壊れた阿像狛犬も櫻井村(現・木更津桜井町)の石工大野吉次郎によって復元され大正11年に再建されました。


                                    
(文・写真/山田敏春)