これはどうだ!のおすすめ狛犬
No.78〜 2012.3

成田山の江戸ブロンズ狛犬

                 成田山新勝寺千葉県成田市成田1


成田山のブロンズ狛犬は江戸っ子狛犬と呼ばれる。
鋳物狛犬は江戸は神田鍋町に住んだ
鋳物師の粉川国信が原型を造り、鋳物大工の長谷川良寿が型に銅を流し込んで鋳造、台座は石工の金二郎が担当した。
鋳物の名品は数々あり、作者として鋳物師の名のみ取沙汰されるが二人の息が合わなければ、名品は生まれない。
この狛犬は嘉永三年(1859)に鋳造奉納されたが29年後の明治十二年(1879)に長谷川良寿が永代修繕料百円を寄進、さらに20年後の明治三十二年(1899)にも百円を寄進している。
長谷川氏が50年にも渡って修繕料を収めたのは奉納者が極近い関係にあったものと思われ、先代、つまり父親か祖父の可能性が考えられる。

 嘉永三年庚戌年 九月二十八日
 江浅男山大護 八十有三槐翁

 東都鋳物師 粉川市正藤原国信作造之
 東都鋳物大工 長谷川兵部源良寿

 牛込岩戸丁 石工金二郎

 永代修繕料金百円 
 明治十二己卯年六月
 長谷川兵部源良寿造

 永代修繕料金百円
 明治三十二年四月


奉納者銘は

  「嘉永三庚戌年 九月二十八日」
  「
江浅男山大護 八十有三槐翁

とあるが「江浅男山大護」の意味は不明、また「山と大」が一字の可能性もある。
「八十有三槐翁」の「八十有三」は年齢で「槐翁(えんじゅおう)」が奉納者の名前だが、これは隠居後の号であり現役時代の名前は不明である。
ちなみに広辞苑などで「
」を引くと槐安夢(かいあんのゆめ)、「李公佐著 南柯太守伝」という小説がもとになっていて「南柯(なんか)の夢」として知られている。


内容は、唐のある侠客が酒に酔って庭の槐の木の下で昼寝をしていると夢をみた。
槐安国で王女と結婚、子もなして繁栄したが、隣国との戦や権力争いで失脚、妻や友人も死んだ、夢がさめてみると槐安国は槐の木の根元の蟻の国だったという、人生のはかなさ、人の世の栄枯盛衰の話である。
槐翁もこの寓話に自身の八十三才の人生を重ねていると思われるが、隠居後に狛犬を奉納したのは夢だったかもしれない、だがその夢を我々が今見させてもらっている。

                           参考「駒田信二著 中国故事 はなしの話」



(文;山田敏春 写真;山田・阿由葉)