〜キツネ(2)  ダキニ天の狐…仏教系稲荷のキツネ
仏教系稲荷の本尊、ダキニ天は「白狐」に騎乗する姿で表現される。
この「狐」の縁で、日本古来の(神道系)稲荷と次第に習合して
鎌倉時代中頃には、神仏、両系の稲荷が並存することになった。
狐を神使とする。
荼枳尼天(ダキニ天)とキツネ…仏教系稲荷
仏教(寺社)系稲荷の本尊は宗派(寺社)でそれぞれ呼称は異なるが、インド伝来の荼枳尼天(ダキニ天)を祀る。
仏教系稲荷として、
豊川稲荷(曹洞宗)最上稲荷(法華宗)が知られる。
インド伝来のダキニ天は、かつて人の心臓や肝を食らう夜叉(鬼女神)として恐れられていたが、大日如来の霊力に心服して善神となり、大黒天の眷属になったといわれる。
また、ダキニ天は人の死を6ヶ月前に予知できるという。

日本に入ってから、ダキニ天は平安時代中期には「剣と宝珠などを持った女神が白狐に跨る姿」で表現されるようになった。
本来、稲荷信仰とダキニ天信仰とは別のものだったが、
「狐」を介して、日本古来の(神道系)稲荷神と仏教のダキニ天との習合が次第に進み、鎌倉中期頃からは、神仏、両系の稲荷が並存・混合することになった。

写真左:ダキニ天と狐 石像(20cm程度)
境内の稲荷祠の脇(神奈川県)
天女の姿で稲穂の束を担ぎ、宝珠をもち、白狐に乗る

仏教系稲荷を代表する、豊川稲荷、最上稲荷のご本尊(ダキニ天)は、天女の姿で稲穂の束を担ぎ、宝珠をもち、白狐に跨っている(下図参照)。この白狐が神使とされる。

三州本山豊川稲荷
(円福山妙厳寺〜曹洞宗)
愛知県豊川市豊川町1番地
豊川叱枳尼真天(トヨカワダキニシンテン)
最上稲荷
(最上稲荷教総本山妙教寺法華宗)
岡山県岡山市高松稲荷712
「最上位経王大菩薩」(「最上さま」) 
  
赤坂 豊川稲荷(豊川稲荷東京別院)
本堂前 ブロンズの大狐
愛知県豊川閣の直轄別院で、豊川叱枳尼真天(トヨカワダキニシンテン)を祀る。
江戸時代、大岡越前守忠相が信仰した由緒ある尊像を祀っている。
寺の立派で大きな本堂の前に、これまた、大きなブロンズの狐が一対ある。
裏手には、沢山の狐像が林立する。ダキニ天の神使の狐たちである。

東京都港区元赤阪1-4-7
営団地下鉄丸の内線・銀座線赤阪見附駅

最上位経王稲荷(千住神社の末社)
千住神社の境内にあるこの稲荷は、「最上位経王大菩薩」(ダキニ天)を祀る仏教系の最上稲荷である。
なお、同じ境内に「宇迦之御魂神」を祀る神道系稲荷も並存する。

右は稲束を振り分けて背負い倉の鍵に足を置く、左は子狐を背に宝珠に足を載せる
建立年等は不明

東京都足立区千住宮元町24-1
京成本線千住大橋駅歩6分

池上本門寺長栄堂(日蓮宗・長栄稲荷)
本尊の「長栄大威徳天」は稲荷神で、高祖日蓮が佐渡ヶ島に配流されとき、
白髪の翁として現れ、以後、高祖日蓮を生涯守護したとされる。
日蓮・法華経の守護神とされた。
なお、この堂では大黒天も祀るが、ダキニ天は大黒天の眷属とされる。

長栄稲荷の門前の左右に、左は稲束を担い、右は宝珠を持つ阿吽の狐像が置かれている。
明治43年(1910)5月 奉納者 浅草下谷の消防団員

?東京都大田区池上1-1-1
東急池上線「池上駅」下車

薬師稲荷

薬師神社は「瑞光山医王院常蓮寺」という寺だったが明治維新の神仏分離の折、
薬師神社となった。明治26年の川越大火で消失し翌年再建された。
御本尊は薬師如来の立像だという。
神社と名はついているが、実体は寺である。

この社の境内に「薬師稲荷」がある。
この稲荷も実体は
仏教系稲荷といえるので、狐像はダキニ天の狐である。
寺の稲荷の狐が、神社の注連縄(シメナワ)を首に巻いている。
明治の神仏分離の申し子である。 

埼玉県川越市幸町15-2
西武新宿線本川越駅下車、歩15分「時の鐘」の奥「薬師神社」内