狼-(8) 〜オオカミ 飛騨高山のオオカミ
深い山々に囲まれた飛騨高山地方では
かつて、秩父地方と同様に山犬
(オオカミ)は比較的身近な存在だった。
飛騨高山の三社のオオカミ像を収録した。
  
飛騨高山地方とオオカミ(山犬)

かつて、深い山々に囲まれた飛騨高山地方では、身近に、山犬(オオカミ)を目にしたり、話に聞いたり
することも多く、山犬(オオカミ)を畏怖する一方で畏敬の念を抱いて暮らしてきた。
このような日常の暮らしの中で、人々が、山犬(オオカミ)を「山の守護者」=「山の神の使い」と考える
ようになり、ひいては、この地方の神聖な場所や神社・寺などの「守護を担う動物(守護獣)」とみなす
ようになったのも自然のことと思われる。
さらに、山犬(オオカミ)に神徳を求めるようになり、「お犬さま信仰」にもつながったと思われる。
なお、この地方の初期の狛犬は、小振りで、山犬風なのが特徴。(次ページの参考例示を参照)
 

水無(みなし)神社(飛騨一之宮)祭神:水無神、御歳大神

由緒書に、「神代の昔より表裏日本の分水嶺位山に鎮座せられ、神通川、飛騨川の水主、また水分けの神と崇め、農耕、殖産祖神、交通の守護(道祖神)として神威高く延喜式飛騨八社の首座たり。
歴代朝廷の信任厚く、御即位、改元等の都度霊山位山の一位材を以って御用の笏を献上する」とある。

オオカミ像がなぜ置かれたかは不明だが、飛騨の古社の守護に、
山犬
(オオカミ)が置かれたとしても不自然ではない。

山門格子内の木彫オオカミ

今まで見たことがないほど
装飾性の高いオオカミ像で、
彩色された頭部の迫力は凄まじい。
格子の間から見えるオオカミの特徴である
アバラ表現は明瞭である。
江戸期のものとのこと。


拝殿前の左右に置かれているオオカミの石像は、
山門の木彫オオカミ像を原型として造られたものである。

昭和28年9月 寄進:熊崎善親
石工:杉本甚右江門


岐阜県高山市一之宮町5323
JR高山本線「飛騨一ノ宮」駅、歩7分
白山神社 祭神:白山権現
白山は、加賀、越前、美濃にまたがる山である。
美濃(岐阜県)でも白山信仰は盛んで、この社も山仕事の安全を祈願して祀られたものと思われる。

上杉千郷著「狛犬事典」(戎光祥出版)にこの社について下記のように書かれている。

「山犬が神の使いと信じられ、昔はこの神社の鍵取りを勤める国定家からお札をいただいて旅に出ると、山犬除けの霊験を得て、旅の安全を期することができたといわれる。」

境内の参道左右に阿吽のオオカミ像がある。
大正15年4月建立  世話:若社中

寄進:岡山吉次郎・藤吉 清水新平

また、拝殿の前左に注連縄をした一体のみのオオカミ像がある。

岐阜県飛騨市古川町中
高山線「杉崎駅」下車南西へ1.8km

日枝神社(飛騨山王宮) 祭神:大山咋神
永治元年(1141)、時の飛騨守平時輔がある日
片野山中で狩に出て狼を射たが、命中したはずの老狼は見当たらず、矢は古杉に突き刺さっていた。
これを奇端に思った時輔が、「大山咋神(山王=山の神)がその使いである狼を救われた」と神威を感じて、近江の日吉(山王)大神を、城砦のあった大石山に、鎮護として勧請した。
それが、この社のはじまりとされる。


一般に、日吉大社(大山咋神・山王)の神使は「猿」とされているが、
この社の由緒では、山王の神使は「狼」とされた。
これは、山の神の神使は狼と考えられてきた、飛騨高山という土地柄のせいかも知れない。
因みに、関東(秩父)でも、山の神(大山祇神)の神使は「狼」とされている。

珍しい木彫りのオオカミ像がある。
一本の木から彫り出した、いわば円空彫りのような阿吽の像である。

岐阜県高山市城山156
高山駅から南東へ1.5km(25分)