馬1-2 雨乞いの馬
「水を司る神」を祀る「貴船神社」や「丹生川上神社」には、日照りや長雨が続くと、朝廷より勅使が派遣されて、降雨を祈願するときには「黒馬」が、止雨を祈願するときには「白馬」が、その都度、奉納される習わしになっていた。

貴船神社(貴布禰総本宮)

水を司る神、「高□神(タカオカミノカミ)」を祀る社として名高く、延喜の制に基づく「名神大社」という、最高位の格式を持つ神社とされていた。
※ □は表示できないが、雨冠に、くち(口)を横に三つ並べ、その下に龍と書く

貴船神社の神水

貴船神社の黒馬と白馬像

「貴船神社要誌」によると、「嵯峨天皇弘仁九年(819)以後、歴代天皇は、しばしば勅使を派遣して、炎旱(ヒデリ)の時には黒馬を、霖雨(ナガアメ)の時には白馬を献じて雨乞い、雨止みを祈願した」とある。
なお、丹生川上神社(奈良県吉野郡)にも同様の記録が残る。



                京都市左京区鞍馬貴船町
                  叡山電車「貴船口」駅下車、歩30分
水無(みなし)神社(飛騨一之宮)
由緒書に、「神代の昔より表裏日本の分水嶺位山に鎮座せられ、神通川、飛騨川の「水主」、また「水分けの神(みくまりのかみ)」と崇め、農耕、殖産祖神、交通守護(道祖神)として神威高く延喜式飛騨八社の首座たり」とある。
特に農作業に欠かせない水源の神として、干ばつの時には雨乞い祈願がなされた。


祈雨の神馬(黒駒)〜伝、左甚五郎の作


祈晴の神馬(白駒)
祈雨祈晴の馬として、黒白二体の神馬(木造)が神馬舎に保存されている。
黒駒は祈雨用、白駒は祈晴用。
なお、例祭(5月2日)にはお旅所から帰られる神輿のお迎えに引き出されて神馬の役も担う。



                 岐阜県高山市一之宮町5,323
                    JR高山本線「飛騨一ノ宮」駅、歩10分

絵馬について

貴船神社の絵馬
貴船神社は「絵馬」発祥の社
上述のように、歴代天皇から、降雨・止雨の祈願に際しては、その都度、生きた馬を献上して祈願がなされる習わしになっていた。
しかし、平安時代の「類聚符宣抄」によると、時には生馬に換えて簡略化された「
板立馬(板に馬の絵を描いたもの)」が奉納されたという。
この
「板立馬」こそ今日の「絵馬」の原形といわれ、貴船神社が絵馬発祥の社とされている。今日の絵馬は、かつて、生きた馬を献上して祈願していた名残でもある。

鶴岡八幡宮(鎌倉市)の絵馬
絵馬が一般に広まったのは、鎌倉時代以降のことで、当初は馬の絵だったものが、他に狐、蛇、虎など祭神の神使や、神仏、干支、武者、祈願する内容(例えば目の悪い人が目の絵)といったように絵柄も変化した。
また、専門絵師による大きな絵馬を神社や堂に奉納することも行われた。
絵馬の大半は板の上部を山形にしたもので、通常は、祈願や感謝の意を記して、神社の絵馬掛に奉納する。
絵馬の中には、「鶏の絵を描いて、子供が夜鳴きしないように」、「ムカデ(百足)を描いて、おあし(銭)が増えるように」、「兎を描いて、つき(運)がくるように」と祈願したものもある。
手向山八幡宮(奈良市)の立絵馬

華麗に彩色した黒馬の板を立てたもので、
「板立馬」を伝えるものとされる。

また、現在全国の社寺に奉納される絵馬の古い形式のものを今日に伝えるものでもある。